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廃坑の秘密

 



 ゲフェンの街から北に歩くと寂れた炭鉱がある。かつては鉱石も多量に産出されていてゲフェンの街を鍛冶の街として知らしめるのに一役買っていたと言う。
 だが、何時からか炭鉱にはモンスターが出る様になった。凶暴化したモグラや蟻、吸血蝙蝠など、炭鉱夫の命の危険に曝す様なものが少しずつ増え始めた。それでもしばらくは炭鉱も稼動していたが、それもほんの少しのことだった。
 かくして、北の炭鉱は鉱脈が残りながらも廃坑となった。




――1Fにて。


「あっちこっちに道が分かれてますねぇ。何処から行きます?」
「どっから行ってもかわりゃしないんじゃないのか?」
「リリィの云う通りだと思うよ、フォスちゃん。ま、3F入り口前で集合でもいい様な気がするけど」
「…二人ともハエを使う気満々ですね」
「うん。面倒でしょ?」
 灯の乏しい炭鉱入り口で3人が固まって話す。
 1人は長身で黒髪の騎士。
 1人はやせ細った赤毛の暗殺者。
 1人は灰髪のブラックスミス。
 職業バランスだけならとても悪く見える3人だったが、それは本人らも自覚済みだ。それでも一緒に居ると程々に居心地が良いから時々はこうしてPTを組んで狩りに来ているのだった。
 そして、今日はちょっと足を伸ばしてゲフェンの炭鉱までやって来ている。
 壁になるのはアサシンのラジウム。殲滅主力は騎士のタイガーリリィ。補助にはBSのフォス。回復役は居ないが、回復アイテムやイグドラシルの葉もカートに積んであるから長期滞在も可能だろう。
 石炭に鉱石が手に入れば上々、と思いながらの狩だが、目的地ではモンスター量もさることながら、同業者との熾烈な争いも待っていそうだ。尤も、効率重視という訳でもないから、何かあれば3人は直ぐに戻ろうと提案するだろう。
「はいはい…それじゃ3F前で待ち合わせって事で。ぁ、多分私は到着遅いですよぅ?」
「だいじょぶ、待ってるから」
「んじゃ、無事に辿りつこうぜ」
 言った矢先にラジウムとリリィの姿が消える。恐らくハエを使って1Fの何処かに転移したのだろう。
 1度で目的地に辿りつけるかは運次第。二人ともハエを大量に持ち込んでいる様だから何の問題も無いだろうと思いつつ、フォスはカートを引いて歩き出した。




――2Fにて。


「だあぁぁぁぁ!!何でここにも金網があるんだ!!」
「リ、リリィさぁん…落ち着きましょう、ね?」
 ハエを使って地下2Fを攻略中にひょんな偶然でリリィと出会えた。瞬間的に違う場所に転移させるハエのランダム性を思えばそれはとても幸運だったが、同じランダムならこのような通路の途中よりも3F入り口付近に転移してくれたら良かったのに、と思ったのはリリィとフォスの共通した思いだった。
 2Fはひたすら細い通路が整然と並んでいる。本来ならそれを通り抜けるのに苦労はいらないのだが、徘徊するモンスター対策として彼方此方に金網がつけられているのだ。
 はっきり言って邪魔の一言に尽きる。
 しかも、モンスター対策なだけに、人の力で如何こう出来る強度では無い。鍛冶の街が総出で仕上げたその一種の芸術を横目にフォスは溜息をつきながら次の道を模索していた。
 実際、この炭鉱の通路は迷路の様になっているが、道が無いわけでは無いのだ。
 リリィを宥めながらも歩き出そうとしたフォスだったが、不意に金網の向こうに見た事の有る赤い髪のゴーグル姿を見つけた。
「…リリィ、何やってんのさ」
 金網の向こう側に呆れた顔をしたラジウムが立っている。彼は気楽に近付き、手にしたジュルをカツン、と金網に当てて、そこでようやく3人は格子越しの対面を果たしていた。
 相変わらず怪我ひとつ無いのはその職業特性か、本人の才能か。ちょっと嫉妬を感じながらもフォスはリリィの背後から顔を出し、ひらりと手を振って挨拶をする。
「ぁ、ラジウムさんだー。やほぅですよぅ」
「やほぅ、フォスちゃん。リリィとは合流したんだねぇ」
「ええ、さっき偶然に。ラジウムさんはー…」
「さっさと着いてやがる、卑怯もんめ…」
「運がいいと言ってくれてもいいでしょ」
 会話をしながらフォスはラジウムの背後をちらりと見る。
 其処は通路のように狭い場所ではなく、開けた空間だった。と言う事は、ラジウムは既にこの通路迷路は抜けているらしい。
「あー、もうちょっとなんですね、此処抜けるまで」
「そそ。だから早く来れるッて」
「…ラジウム、テメェ…俺とフォスの姐さんに対する態度違いすぎだぞ」
「だって、フォスちゃんは女の子でしょ。体力馬鹿のリリィとは違うからさ」
「あはは、ありがとうですよぅ。でも護られるだけの立場でもないですし」
 言った矢先に何処からとも無く赤蝙蝠が近付いてくる。金網を掴んでいたリリィが剣を揮うよりも早くフォスはチェインを振り回して数撃で赤蝙蝠を撃ち落していた。
「さっすがフォスちゃん…」
「姐さん、凄すぎ…」
「伊達に何時もソロってる訳じゃないですよぅ? この程度までなら何とかなりますから」
 チェインと盾を持った侭、にっこりと笑ってリリィを促すように歩き出した。
「リリィさんと一緒にそっちに行きますからラジウムさんはもう一寸待っててくださいね?」
 少しばかりの遠回りをしながら、目指すは3F。もう少しでたどり着く。




――3F。


 3階に下りると辺りの雰囲気は一変する。今までは掘り起こした通路など、人の手が入った部分の方が多かったが、ここから先は自然鉱脈と洞窟を利用した形になっている。高低差も大きく、一度段差にはまると戻るのもかなり苦労しそうな地形だった。
「相変わらず人多いよなー…」
「…私、此処まで来たのって初めてかもしれません…」
「あれ?そうなんだ?」
「弱小BSのソロは此処だときつそうだし…遠いから」
 場所を物色するリリィとラジウムの後を歩きながらフォスは物珍しそうに辺りを見回す。岩璧に混じる僅かな鉱物に目を輝かせてしまうのは職業柄だった。だが、この岩壁程度の純度では到底役立たないことも分かる。
「…今日は何時にまして混んでるよね。如何する?ちょっと下に行ってみる?」
「まぁ、死んだら死んだでその時だしな」
「一応イグ葉も持ってますから全滅しない限りは強制生き返りですよぅ。頑張ってくださいねぇ?二人とも」
 湧き出る敵を倒しながら、冗談交じりに口にする。1匹2匹なら例えソロでも問題ない程度だが、沢山の敵に囲まれてしまうと危険だ。
 人の居ない場所を探し当て、定点狩りの準備をする。何処まで出来るのかは分からないが、楽しみながらやれたらいいな、なんて他愛ないことを3人で話しながら武器を構えて敵を待ち受けた。


 ちなみに結末は。
「ミストにスケルトンワーカー…沸き過ぎですよぅ…」
「10数匹の鬼沸き…逝けるよ普通に」
「見事、死んでるけどな…」
 炭鉱の一角で大の字になっている3人の姿だった。突然の敵の大量発生に捌き切れなくなった末の全滅だった。通りすがりの人からかかる声にほろりとしながらも大の字の3人はしばらくその場で言葉を交わしていた。




――本日の収穫。


収集品多数。
石炭6つ。
鋼鉄2枚。
鉄11個。
鉄鉱石2個。
相場換算約110k弱…とりあえずは、黒字の狩りとなった。











***
廃坑だけど秘密は無いです(笑) そして何故かROキャラを使ってみる。……スイマセン、ラジウムとリリィの口調忘れたよ…(死)【ファンタジースキーに100のお題 035:廃坑の秘密】
by radium_plus | 2006-12-07 00:25 | Works:月
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