わらうねこのせいかつ

 



珍しいことじゃない。


そう思って、ねこはわらった。


そう、珍しいことじゃない。
貴族が手慰みに動物を飼うことなんて。
うちの犬は聞かん気でねえ。そこが可愛いのですがね。
ああ判りますよその気持ち、うちの猫も可愛くてねえ。
おや本当だ、綺麗な赤の毛並みをしている。あたりを引きましたな。
そうでしょうそうでしょう。
人間たちの言葉が流れてゆく。
首輪が邪魔だな。
うざったそうに首を傾げて、ねこは主人の傍らに居た。
じゃらじゃらと重い鎖が音を立てる。
別に逃げやしないよ。
剥げた爪の瑕を舐めながら、赤い目をめぐらせた。
犬と目が合う。
「瑕だらけだね」
ねこがそう云うと、
「おまえこそ」
犬は答えた。
犬の目は、ぎらぎらと野性に輝いていた。
おれの目は多分違う。


そう思って、ねこはわらった。


人間たちの会話は終わったようだ。
犬の主人が鎖を引いた。
またね、と云うねこに、犬は一瞥をくれて。
「さよなら」
そう云った。





数日後、犬の主人はやってきた。
この間とは、違う犬を連れていた。
ばかだなあ。


そう思って、ねこはわらった。


今度の犬は少し趣向を変えましてね。大人しくて従順な奴ですよ。
いやはや、気が多くていらっしゃる。
ははは、判ってはいるのですがね。
変わらない会話が流れてゆく。
ねこは変わらずに瑕を舐めていた。
今度は犬を見なかった。





一人と一匹が帰って。
主人と寝室に入って。
差し伸べられた手に身を委ねながら。
ばかだなあ。


そう思って、ねこはわらった。


犬は、犬らしく。
大人しく飼われていればよかったのに。
ねこは、ねこらしく。
「にゃあ」と啼いていればよい。
別に。
珍しいことじゃない。


そう思って、ねこはわらった。

















【わらうねこのせいかつ】03.06.03.7:10
ねこは猫では、ありえないかもしれない。
ラジウム、昔は色々あった模様。
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by radium_plus | 2006-12-07 00:31 | Works:ニビ
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